2023 0830 『テート美術館展 光』@国立新美術館
少し涼しくなってから行こうと思っていた『テート美術館展 光』だが、まだ1〜2週間は暑さが続きそうだ。地下鉄を六本木で降り、東京ミッドタウンから美術館まで炎天下を歩く距離は大したことはない。外を歩くのは少しでも少なくしたいという連合いは、六本木ではなく美術館に直結した乃木坂まで地下鉄で行こういった。有楽町で千代田線に乗り換え乃木坂まで行くことにした。有楽町の改札を出ると地下鉄の千代田線改札への案内表示が見つからない。Google Mapで調べたが、日比谷駅ではなく二重橋前駅が最寄り駅と間違え地上を二重橋前まで歩く羽目になった。幸い10時過ぎの皇居前はどうしようもない暑さではなかった。
11時前に展覧会場に入ると入り口周辺はかなりの人で滞っていた。奥へ進むにつれそれほどの混みようではなくなったが、絵によってはいい角度から見ようとすると少し待つことはあった。今回の展示作品で一番記憶に残りそうなのは、このジョン・ブレットの《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》だ。幅が212.7cmの横長の大きな絵で色鮮やかにイギリス海峡が描かれている。
興味深かったのは、フィリップ・ウィルソン・スティーアの《ヨットの行列》だ。原題は《A Procession of Yachts》で、場所はヨットで有名なワイト島のカウズだ。Processionという言葉は知らなかったが、英和辞典では行列、行進だ。手前のヨットはおそらく2本マストで、セールはブームにラッシングされていて、波を立てている気配はないので停泊して背景のヨットを見ている可能性が高い。その手前にはローボートが何隻も描かれているが、どれも無人で動きは感じられず、停泊・錨泊しているように見える。図録では、”・・・輝く帆を上げたたくさんのスクーナー船が描かれている。”と解説している。背景に描かれた4隻と思しきヨットは、全てを明確に確認できないが2本マストのスクーナーではなく1本マストのガフリグ・カッターにのようだ。これらはブームの開き具合も勘案すると左手奥からの風を受けて左に進んでいると言っていいだろう。時代からするとJクラス以前ではないか。コンスタブルの絵は好みだが、これは《ハリッジ灯台》、背景にはいくつかのセールが描かれている。ハリッジ(Harwich)はサフォーク州、イプスウィッチの南東の湾の入り口で、現在も2つの灯台が残っているが立て替えられている。シスレーの風景画も好きだが、これは《ビィの古い船着き場へ至る小道》。この絵はホイッスラーの《ペールオレンジと緑の黄昏ーバルパライソ》。解説によればスペインと南米の戦争中で、バルパライソの港から翌日に控えたスペイン軍の砲撃を前にイギリス、アメリカ、フランスの平和維持艦隊が撤退を開始した様子を描いている。2015年の横浜美術館でのホイッスラー展でもこの絵を見ていて、ブログにこう書き残していた:”気に入った画をいくつか。『肌色と緑色の黄昏:バルパライソ』は港に停泊した帆船のある景色好きだし、ブルーとグリーンの色調が美しい。図録の色合いは展覧会で見た印象より明るい。照明がそうしている面もありそうだが、通常は図録の方が鮮やかさに欠ける気がする。”ブルターニュの海岸”はその例な気がする。”印象派のピサロの《水先案内人がいる桟橋、ル・アーヴル、朝、霞がかかった曇天》も興味深い。描かれた多数のヨットはパイロット(水先案内人)カッターで本船の入港時には先を争って出ていったのだろう。手前の岸壁にひしめいているのは図録の解説の通り水先案内人ではなく観衆(見物人)だ。これから入港する本船を待っているのか、慌ただしく出ていくパイロット・カッターの動きを楽しんでいたのか?気になるのは”桟橋”だ。フランス語による元のタイトルは、"L'anse des Pilotes et le brise-lames est, Le Havre, après-midi, temps ensoleillé"、"L'anse"のanseの英訳はcove, inlet、和訳は入江、小湾で桟橋とはなりにくい気がする。英題のjettyから桟橋となったのだろうが、jettyは 突堤、防波堤、桟橋だが、右手前に石積みで先端部が木造と思しき桟橋、突出部が見え、ここがjettyだろう。jettyには波や潮に対して港や海岸・砂浜を守る意味があるが、この右手前の構造物はその点では該当しないように見受けられる。原題の"L'anse"のanseの英訳はcove, inlet、和訳は入江、小湾だ。もしこの英語と日本語の訳にしたがうと、”水先案内人の(乗る船の)港(湾)”という感じになり情景に合う気がする。ここに描かれているのはル・アーブルの港全体ではなくその一部、パイロット・カッターだまり、小さな湾なのではないか。
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