2023 0904《水先案内人がいる桟橋、ル・アーブル、朝、霞がかった曇天》by カミーユ・ピサロ
先週も書いたが「テート美術館展 光」で見たピサロの《水先案内人がいる桟橋、ル・アーブル、朝、霞がかった曇天》のタイトルがどうも気になりその後もGoogleで色々と調べた。以下はそれをまとめたものだ。
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8月30日に六本木の国立新美術館で開催中の「テート美術館展 光」を見にいった。海が主題の絵は多数あったが、その中で気になったのがピサロの《水先案内人がいる桟橋、ル・アーブル、朝、霞がかった曇天》、英題:《The Pilots’ Jetty, Le Havre, Morning, Cloudy and Misty Weather》だ。多数の人が桟橋、もしくは岸壁に描き込まれている。しかし、この人たちはあまりに数が多く水先案内人とは思えない。水先案内人の桟橋、Pilots’ Jettyとはどこなのか、絵のどこを指しているのか気になった。家に帰ってから調べだした。
さして大きくはない港には色々な方向を向いたセールを上げた小型の帆船が多数ある。サイズ感からするとこれらはPilot Cutterだろう。水先案内人(Pilot)が乗り本船の入出港を案内する~60ft位の高速ヨットだ。有名なPilot CutterはイギリスのBristol Channel Cutterだが、ドーバー海峡を挟んだフランスにも同様のPilot Cutterは存在したようだ。絵が描かれたのは1903年、すでに蒸気船の時代で船体は大型化していてここに見える湾は本船には狭く感じられる。パイロット・カッターが邪魔になりそうだ。
フランス語の原題は、L’Anse des Pilotesで、anseは入江、小湾、英語ではcove、inletだ。英題のThe Pilots’ Jettyは、何故Pilots’ Cove、あるいはPilots’ Basinとかではないのか?このピサロの絵は彼が死ぬ前年の1902年にル・アーブルに滞在し港を見渡せるホテルの1室で描いたシリーズの1枚だ。テート美術館のウェブにある絵の解説には、彼が滞在し絵を描いた部屋からの眺めについて以下のように書かれている:“The window of his room opened on to a balcony which commanded a fine view of the harbour in three main directions: towards the jetty and the semaphore, towards the pilots' jetty, and in the direction of the outer port. Thus he had three pictures, or rather three series of pictures, before him and could record the changing aspects of these motifs at different times of day and in different weather.”
“彼の部屋の窓からは、港の3つ方角が見渡せた:岸壁と旗を上げる塔の方角、パイロット桟橋、そして外港だ。ここで、Jetty and semaphoreは奥の岸壁とその右に見える旗を上げている塔、pilots’ jettyは手前右にある先端は木造に見える突堤ではないか。Outer portはそれよりさらに右で絵には描かれていない。The pilots’ jettyという名前の突堤があり、あるいはよくそう呼ばれていたので、Pilots’ coveとか湾、入江を英題に入れなかった可能性はある。
別の解説はホテルからの景色を以下のように記述している。(https://artsandculture.google.com/asset/l-anse-des-pilotes-et-le-brise-lames-est-le-havre-après-midi-temps-ensoleillé-camille-pissarro/CwGQjVm4zEz-dw?hl=en)
“one reveals to the east a section of the Grand Quai furrowed by tramway tracks, while the other, facing west, shows part of the old jetty with the pilot station in the foreground. “
日本語ではこんな感じか:“東には路面電車の線路が伸びた大波止場が、西にはpilot stationのある古い突堤の一部が手前に見える”。” the old jetty with the pilot station”がpilot jettyと呼ばれていた可能性はあるだろう。
1. L’Anse des Pilotes, Le Havre, matin, temps gris(曇り), brumeux(濃霧、もや)
English title: The Pilots’ Jetty, Le Havre, Morning, Cloudy and Misty Weather
日本語タイトル:”水先案内人がいる桟橋、ル・アーブル、朝、霞がかった曇天”
所蔵:テート美術館
2. L'anse des Pilotes et le brise-lames est(水先案内人の入江と東の防波堤), Le Havre, après-midi(午後), temps ensoleillé(晴)
English title: The Pilots' Jetty at Le Havre
所蔵:MuMa(Musée d'art moderne André Malraux) Le Harve
1との違い:朝に対し午後、曇天に対し晴れ
3 L’Anse des Pilotes, Le Harve, matin(朝), soleil(太陽), marée montante(上潮)
English Title: The Anse des Pilotes, Le Havre, Morning, Sunshine, Tide Rising
所蔵:MuMa(Musée d'art moderne André Malraux) Le Harve)
1,2との違い:岸壁ぞいの黒い屋根の白っぽい建物と薄緑の三角屋根の茶色の建物の位置関係が逆転している。より左(東)に視点があると言える。ただホテルに1室の窓から見る方角を変えて描いたというのは無理がある。建物の配置は見えるままではなくある意味で自由に置いたのか。中央の鉄塔が省略されているのも、構図から選ばれた選択かもしれない。
“---one reveals to the east a section of the Grand Quai(大波止場、岸壁) furrowed by tramway tracks(路面電車の線路)---“がどの線を指しているかははっきりしない。斜めに走る灰色の2本線か?
4. The Inner Port and Pilots Jetty, Le Havre
原題:不明
所蔵:個人
1と2に近い方向を描いているが目につくのはヨット(パイロット・カッター)の多さだ。タイトルから水面がInner Portで手前の突堤(岸壁)がPilots Jettyと考えられる。
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